こらむ 100 美術の研究授業を見て

「こらむ」もふらふらしながらも100回目を迎えた。それを記念してでもないが、今まであまり書かなかった「美術教育」について書いてみようと思う。実は「こらむ 72」ですでに書いてはいるのだが、専門教育の「美術の教育」に対して一般教育における美術教育は「美術を通しての教育」が重要だと言うことを書いた。美術家を育成するためでない小中学校の教育にいおいては、美術は手段であって目的ではないという主張である。川崎の中学校で毎年行なっている『六月会』という研究会が昨日6月9日行われ、そこで感じたことを記録しておきたいと考えたがその中心となる問題点が「「美術を通しての教育」が揺らいでいるとことから出発しているように思えたのである。私が中学に転任して2年目の昭和36年に始まったこの会も今年は50回目を迎えるという。この研究会の中心は公開授業である。川崎を4つに分けた研究組織で検討されたことを元に代表者が授業を行うということで、今年も4授業が公開された。名画鑑賞でその画面構成を捉えてより深い鑑賞をさせようとする試み、扇子絵を夏を表す言葉をキーワードに筆勢や吹き付けなどの技法で表現する試み、クラフトテープを版画材として用い自分の一番大切なものを表現させようという試み、粉末状の顔料をメデュームと水で練り込んで絵具を作り、その色に自分の思いを込めた名前をつけるといった、それぞれ工夫がなされた授業であった。しかしそれぞれ危険性を孕んだ内容であるように私には感じられた。「なぜ構成指導と名画鑑賞なのか」うっかりすると名画鑑賞は構成や技法をそしてその作者の意図や生き方まで理解しなくてならないと考える人たちがいる。そのような鑑賞もあっても良いが無くてもということはとても重要でなことで、知識はあくまで鑑賞するという行為の補助的なものであることは、きちんとおさえておかなければならないことである。「構図はかういう働きもあり、こういう狙いで制作している作家もいる」というのはいいが「この作品はこういう構図になっているから素晴らしい」とか作品を見る時にはまず構図がどのようになっているか考えなさい」となると困りものである。「絵具を自分で作る」授業もなかなか新鮮な発想の授業であったが、ここはあまりに深い森の中という感じで、これから多いに検討が必要な教材であろう。粉末状の顔料に水を混ぜ、糊溶液を入れて練り合わすという体験は、なんでも簡便に入手出来る世界の中学生には新鮮で、思い知らされる行為であろう。おそらく一生忘れられない体験となる。しかしこの程度のことで絵具の原料の種類や歴史や絵画表現における意味を理解することにはならない。中学生がどのように感動しようとそこでの体験は「絵具メーカーが提供してくれた色料を混ぜ合わせた」という様々な行程のなかの、様々な歴史の、様々な科学的事象のほんのほんの一部に過ぎない行為なのである。広原を探し歩いて色料を求め、高価な岩石を砕いて自分欲しい色を得た画家たちと化学製品として作られた色料を提供されている中学生と同じ次元で画材の自作という訳にはいかない。一日塗れる範囲の漆喰に絵具を擦り込むフレスコ画、卵を溶剤として用いるテンペラ画(授業者はこの技法での制作を行なう)、ヴァン・アイクの油絵具との闘いなど、画家が長年研究してきたものと、水と製品化されたものを混ぜ合わすだけの行為と同じ次元で語るべきではない。とても良い着眼点で、子どもたちにも良い体験させているように思える授業であるが、どこか違っている。それは歴史的事実と現実との落差を踏まえながら「この子どもたちのこれからの生活に役立つ」何を教えようかという判断である。「気軽に使っているチューブの中の絵具はこんな努力の結果作られているんだよ」というのもうそ。機械がただ練っているだけ。それを知らせたいなら日本画家に実演を頼めばいい。一袋何万円する色と同じ色名で授業教室には無造作にいく皿も盛られていた。この時代はそういう時代なのだということをしらせるなら全く違った授業になる。教師にはもっと深い思慮のもとに題材設定や授業の組立て、そして逃してはならないセリフがあるのである。「明日への美術教室』と副題を掲げるこの研究会での授業らしく、パソコンや投影機、電子黒板など導入した授業展開も歓迎されるべきことではあるが、その使用の適切さやソフト開発の工夫も今後の課題となろう。今後生徒一人が一台のパソコンを持ち歩く時代に、美術教育はどのように最も重要なアナログ教育と新しいデジタル教育との棲み分けは重大な課題となる。しかもこれは早急に行なわなければならない大問題である。ともあれ久しぶりの中学校現場で必死にやっている教師たちの授業を拝見してこちらも真剣勝負の気持ちがむらむらとしてまだまだ書きたいこといっぱいできりがない。この辺で切り上げよう。                         2010.6.10

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